2016/10/05

不思議な親密さ〜「鍵のかかった部屋」のこと

 すべてがとてもドラマチックだった。と同時にすべてがグロテスクであり、いささか喜劇的ですらあった。(ポール・オースター『鍵のかかった部屋』)

 塩田千春「鍵のかかった部屋」の話のつづき。ぼくは塩田さんの展示には2008年に大阪で出会っていて、ずっと心に残っていた。今回はあのときと違い、新作ひとつのみ。しかも美術館でもギャラリーでもない劇場を丸ごとつかった、無数の赤い糸、無数の鍵、5つのドアによりつくられた作品。ドアを開けないと入れない部屋もあるし、開けずとも入れる部屋もある。部屋をかたちづくる赤い糸、天井のところどころには、赤い空間が奥まった先に光源があったりもする。想像するものはいろいろあるだろう。血… からだの中… 子宮、と言っている人がいてそうだと思った。奥へ進むと、錆び付いた様々なかたちをした鍵の雨… 記憶、生と死、そこは、しかし、何やらあたたかい場所のように感じる。ぼくはしばらくそこから離れたくない、不思議な親密さ。

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